住宅に求められる性能はたくさんあるのですが、そのなかで比較的重要なことについて自分の勉強も兼ねて書き留めておきます。
省エネ性能
■ 断熱性能等級
住宅の屋根、外壁、床、窓等の断熱性能(外皮性能とよびます)についての基準です。
等級は1~7があり、2025年から4が最低基準となり、2030年から5(=ZEH水準)が最低基準となる予定です。
住宅の外皮性能は次の2つの値で評価します。
UA[W/(㎡・K)]:外皮平均熱貫流率
室内と室外間の熱の通りやすさ
ηAC[---] :冷房期の平均日射熱取得率
冷房期の太陽日射熱の住宅内への入りやすさ
この値は住宅が建っている地域によって決められていて私が住んでいる愛知県岡崎市付近(地域区分6)では次のようになります。
断熱等級1:UA= - ηAC= - 1980年旧省エネ基準未満 2025年から採用できません
断熱等級2:UA=1.67 ηAC= - 1980年旧省エネ基準 2025年から採用できません
断熱等級3:UA=1.54 ηAC=3.8 1992年新省エネ基準 2025年から採用できません
断熱等級4:UA=0.87 ηAC=2.8 1999年次世代省エネ基準 2025年から最低基準として義務化
断熱等級5:UA=0.60 ηAC=2.8 ZEH水準 2030年から最低基準となる予定
断熱等級6:UA=0.46 ηAC=2.8 HEAT20 G2レベル
断熱等級7:UA=0.26 ηAC=2.8 HEAT20 G3レベル
省エネ等級4は少し前までは1~4の中の最高等級として君臨?してきましたがもはや最低基準となり2030年には消えてなくなってしまう予定です。
世の中の流れはZEH水準の断熱性能に向かっていて、さらに高い性能に変わっていくと思われます。
このUAとηACの性能をクリアするように屋根、外壁、床の断熱材や窓、ドアの性能を決めてゆくのですが、次のような値が関係してきます。
R[(㎡・K)/W]:断熱材の熱抵抗
熱の伝わりにくさで断熱材の性能と厚さで決まります
U[W/(㎡・K)]:窓やドアの熱貫流率
熱の伝わりやすさで窓の建具とガラスの性能等で決まります
η [----]:窓の日射熱取得率
日射熱の侵入しやすさでイータと読みます。
断熱性能ということではどうしても窓が弱点になってくるので特にU値の性能を上げることがコストに大きく影響します。
ZEH水準にするためには窓を、アルミ樹脂複合材料製建具+Low-E 二層複層ガラスG14程度のものを使うことになるのですが、これはLow-Eガラス2枚、その間の中空層が14mmで中にアルゴンガスが入っていることを示しています。ガラスについては枚数が多いほど、中空層については厚いほど、中のガスの性能がよいほど性能が上がります。
断熱性能に限って言えば、不要な窓はつけない、必要以上に大きくしないということがコストをおさえるコツということになりますが、窓に求められる性能はこれだけではないので悩ましいということになります。
■ 一次エネルギー消費量等級
住宅で使用する電気・灯油・都市ガス等を一次エネルギーに換算して計算した消費量の削減の程度です。
省エネ性能が高い設備を使って電気代などを減らしましょうということです。
等級は3~6があり2025年から4が最低基準となり、2030年から6(=ZEH水準)が最低基準となる予定です。
BEI(Building Energy Index)と呼ばれる数値で示されます。
BEI=(設計一次エネルギー消費)÷(基準一次エネルギー消費量)
等級4:BEI=1.0 基準となるエネルギー消費量
等級5:BEI=0.9 基準に対して10%削減
等級6:BEI=0.8 基準に対して20%削減
各等級をクリアするように次のような設備機器を性能のよいものにしていきます。
冷暖房機器:省エネ性能が高いエアコン
換気設備 :効率がよい換気扇
給湯設備 :効率がよい給湯器(エコジョーズ、エコキュート等)
高断熱浴槽、節水シャワーヘッド
照明設備 :LED照明
これらの設備についてはもはや常識的に使われるものが多いので上位の等級とするのはそれほどハードルは高くないと思います。
■ ZEH(ゼッチ)
Net Zero Energy House の略です。(Nははいってませんが…)
正味(Net)エネルギーを使わない(Zero Energy)住宅(House)のことです。
次の3つの性能を組み合わせて自分が使うエネルギーは自分でまかなう(自給自足する)住宅のことです。
高断熱:断熱性能等級5
省エネ:一次エネルギー消費量等級6(20%以上削減)
創エネ:太陽光発電等で一次エネルギー消費量100%以上削減
■ ZEHの種類
より高性能なものを定めたり、建設地の条件を考慮して基準を下げたり、ZEHにはいろいろな種類があります。(UAは地域区分6の場合)
ZEH
UA=0.6 省エネ 20%以上 創エネ 100%
ZEH+
UA=0.6 省エネ 25%以上 創エネ 100%
+次のうち2つ UA=0.5 HEMS EVコンセント
次世代 ZEH+
UA=0.6 省エネ 25%以上 創エネ 100%
+次のうち2つ UA=0.5 HEMS EVコンセント
+次のうち1つ V2H充電設備 蓄電池 燃料電池 太陽熱利用温水システム
エリア限定型(寒冷地・低日射地域・多雪地域限定)
Nearly ZEH
UA=0.6 省エネ 20%以上 創エネ 75%
Nearly ZEH+
UA=0.6 省エネ 25%以上 創エネ 75%
+次のうち2つ UA=0.5 HEMS EVコンセント
エリア限定型(都市部狭小地*・多雪地域限定)
ZEH Oriented
UA=0.6 省エネ 20%以上 創エネ なし
*都市部狭小地
北側斜線制限の対象地域 敷地面積が85㎡未満 2階建以上(平屋は対象外)
その他のゼッチ
ZEH-M
ゼッチのマンション版 ZEH-M Nearly ZEH-M ZEH-M Ready ZEH-M Oriented
ZEB
ゼッチのビル版 ZEB Nearly ZEB ZEB Ready ZEB Oriented
内容が非常に細かく決められていることからも省エネの基準がZEHになっていくことを感じさせます。
■ ZEHの性能を上げるための設備
HEMS(ヘムス)
Home Energy Management System の略
高度エネルギーマネジメント 太陽光発電設備等の発電量等を把握した上で、住宅内の暖冷房、給湯設備等を制御することです。
EVコンセント
住宅から電気自動車等へ充電するコンセントです。
太陽光発電等により発電した電気を使えば自動車のエネルギーも自給できます。
V2H充電設備
Vehicle to Home の略(toが2と略されてます)
住宅から電気自動車等へ充電、電気自動車等から住宅への給電ができます。
電気自動車等を住宅の蓄電池として使えます。
蓄電池
充電して電気をためることができ、必要なときに電気を供給することができるものです。
太陽光発電で昼間につくった電気をためて夜使えます。停電しても蓄電池にためた電気を使えます。
燃料電池
水素と酸素の電気化学反応による発電装置です。家庭用燃料電池としてエネファームが知られています。
太陽熱利用温水システム
太陽の熱を使って温水や温風を作り、給湯や冷暖房に利用するシステムです。
建築と同様に自動車の分野でもCO2削減の動きは進んでます。
EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)へEVコンセントやV2H充電設備を使って自宅の太陽光発電で作った電気を充電すれば自動車のエネルギーも自給自足することにつながります。
家庭用燃料電池と同じくFCV(燃料電池自動車)のように水素と酸素による発電で動くことによりCO2ではなく水しか出ない車もあります。
意外に思うかもしれませんが、宅配ボックスもCO2削減に役に立つと言われています。なぜなら宅配業者さんの再配達が少なくなり、運送時に出る車からの排気ガス(CO2)が減るから。
■ LCCM(エルシーシーエム)
Life Cycle Carbon Minusの略
ZEHの考え方をさらに拡大して家に住んでいる時に加え、家を建てる時やその後の解体時も含めたすべての過程でCO2排出量をおさえ、収支をマイナスにする住宅です。
ZEH基準に加え LCCO2評価の結果が0以下 CASBEE B+ランク以上、または長期優良住宅認定 の要件を満たす必要があります。
LCCO2
Life Cycle CO2の略で、建築物などの建設に伴って発生する二酸化炭素(CO2)の排出量を削減するために、建物寿命1年あたりのCO2排出量を算出して評価する手法です。
CASBEE
Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency(建築環境総合性能評価システム)の略
省エネルギーや環境負荷の少ない材料の使用などの環境配慮に加え、室内の快適性や景観への配慮なども含めた建物の環境品質を総合的に評価するシステムです。
Q(Quality:建築物の環境品質)とL(Load:建築物の環境負荷)をそれぞれ個別に採点し、最終的にその結果をもとにBEE(Built Environment Efficiency:建築物の環境効果)を指標として評価します。このBEEを総合評価として S A B+ B- C の5段階のランクが与えられます。
■ HEAT20(ヒート20)
Society of Hyper- Enhanced insulation and Advanced Technology houses for the next 20 years の略
「一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」のことです。
ZEHやLCCMが住宅の性質を表しているのに対して、こちらは民間の団体名を表しています。前者はCO2の削減を主な目的にしていますが、後者は室内の温度環境を重視していて、冬期間に室内での最低体感温度を10℃〜15℃以上保つために必要な断熱性能を基準としています。
次の3つのグレードがありG2のUA値が断熱等級6、G3のUA値が断熱等級7となっています。
G1 体感温度10℃ UA=0.56
G2 体感温度13℃ UA=0.46 =断熱等級6
G3 体感温度15℃ UA=0.26 =断熱等級7
■ 気密性能
C値(すき間の合計面積÷床面積)という住宅にどれくらいのすき間があるかを示す数値で性能が示されますがこうしなさいという基準は決められていません。
これは設計で求められる値ではなく完成したときに気密測定をおこなって決まる実測値です。
一般的に高気密をうたった住宅のC値は1.0㎝2/㎡程度とされています。
■ エネルギーの種類
一次エネルギー
加工されていない状態で供給されるエネルギー
石油、石炭、原子力、天然ガス、薪、木炭、太陽光、風力、水力、地熱など
二次エネルギー
一次エネルギーを転換・加工して得られるエネルギー
電気、都市ガス、ガソリン、灯油など
再生可能エネルギー
一次エネルギーの中でCO2排出量がゼロ、もしくは少ないエネルギー、また枯渇しないエネルギー
太陽光、風力、水力、地熱など
日本の発電電力量の割合は、再生可能エネルギーが2割強、火力発電(石油・石炭・天然ガス)が7割強、原子力発電が0.5割程度なのですが、再生可能エネルギーを増やし、化石燃料を燃やして作られる電気を減らすことによりCO2を減らして地球温暖化を防ぐという大きな目標があります。
■ 目指すべき省エネ性能は…
省エネ性能を上げるということは狭い視野で見ると
「電気代を節約して家計を楽にしましょう」
というようなことになるのですが、もっと大きな視野でみる必要があり、
「地球温暖化を防ぎましょう」
という大きな目標があります。したがって国も力を入れており地球人である我々は積極的に取り組む義務があります。
この事をふまえれば建築士としては高い性能を進めるべきなのですがそう簡単にはいきません。
太陽光発電はコストがかかりますし屋根の形状を発電しやすくするためデザイン上の制約がでてきます。
また、断熱性能を上げるためには、特にサッシ等の製品コストが下がってくれないと上位の等級をとるのはなかなかたいへんです。
特に省エネ以外にコストをかけたいこだわりがある方は悩ましいと思います。
予算に余裕があり、省エネに対しての意識が高ければ上の等級を目指せばよいと思いますが、現実的な目標は2030年以降のことも視野に入れて断熱等級5(できれば太陽光発電をいれてZEH)かなと思います。
ただ、建設資材などの高騰により建築費が上がっているのが現在の状況ですのであえて付け加えるとすれば… しばらくは断熱等級4を選ぶ「権利(?)」があると言っておきます。
耐震性能
■ 耐震等級
地震に対する構造躯体の強さの基準です。
等級は1~3があり1が最低基準(=建築基準法の基準)となります。
■ 耐風等級
暴風に対する構造躯体の強さの基準です。
等級は1~2があり1が最低基準(=建築基準法の基準)となります。
■ 接合金物
地震時や台風時に建物に水平力がかかると、接合部に大きな力がかかります。
柱には大きな引き抜き力が働きますのでこの力を計算し、これに対抗できるよう柱頭と柱脚に金物を取り付けます。
また、筋交いの端部には強さに対応した金物を取り付けます。
■ 耐震・耐風等級1(=建築基準法の基準)をとるためには
存在壁量 > 必要壁量
となるように地震と風について各階、各方向についてすべて確認します。
建物全体の壁量と建物を4分割した各エリアの壁量を確認します。
存在壁量 :実際にある耐力壁(筋交い等がある強い壁)の量
必要壁量(耐震):床面積に建物の仕様により決まる係数をかけて算出
必要壁量(耐風):風を受ける面積に対して決まった係数をかけて算出
■ 耐震等級2、3、耐風等級2をとるためには
存在壁量 > 必要壁量
となるようにします。
必要壁量を求めるための係数が大きくなるためより多くの耐力壁が必要になります。(それだけ建物が強くなります)
平均存在床倍率 ≧ 必要床倍率
となるように地震と風について各階、各床区間、各方向についてすべて確認します。
平均存在床倍率 :区画ごとの存在床倍率の平均
存在床倍率 :実際に存在する水平面の強さ(屋根、床、火打)
必要床倍率(耐震):建物により決まる数値や地震係数などにより算出
必要床倍率(耐風):建物により決まる数値や風圧係数などにより算出
■ 目指すべき耐震性能は…
最高等級である耐震等級3や耐風等級2をクリアするためには耐力壁の増大によるコストアップや設計上の制約がでてくるのですが、思いもよらない大地震や台風を目にすることが多い現代の状況ではやはりここを目指すべきだと思います。
合理的な設計を行いコストをできるだけおさえながら制約を感じさせない設計をするのが建築士の腕の見せどころでもあるわけですからね… (^^)
耐久性能
木材の劣化を軽減し住宅の耐久性を高めるための基準です。
■ 外壁、土台の防腐、防蟻
外壁を通気工法とする
地面から1m以内に防腐、防蟻処理
外壁下端に水切を設ける
土台にヒノキ、ビバ等を使用
基礎の高さを地盤面から40㎝以上とする
■ 床下換気、防湿、小屋裏換気
基礎と土台の間に通気のためのパッキンをつけて床下を換気
べた基礎等で湿気を防ぐ
軒先に給気口を、棟部分に排気口を設けるなどして小屋裏(屋根裏)の換気を行う。
空気環境
■ ホルムアルデヒド対策
内装の仕上げや天井裏などにホルムアルデヒドを発散しない材料(F☆☆☆☆)を使用します。
現在ほとんどF☆☆☆☆の建材しか流通していないので特に問題ないと思います。
■ 居室機械換気
24時間換気扇により1時間に0.5回空気を入れ換える(2時間で全ての空気を入れ換える)のですが、次の3つの方式があります。
第1種換気 機械吸気・機械排気
第2種換気 機械吸気・自然排気
第3種換気 自然給気・機械排気
このうち、居室に給気口を設け、トイレ等の換気扇で排気を行う第3種換気が一般的です。
住宅の気密性能が上がったことにより新鮮な空気が入りにくくなりシックハウス症候群が社会問題になったことがきっかけでこの基準ができました。
せっかくすき間をなくしているのにそこに穴をあけるわけでちょっと皮肉な感じですが、健康にかかわることなので大事な基準です。